【日本語解説】SGDQ2019でTASさんがマリオカートWiiを遊んだのを解説しようとしたようです
7月、大盛況のうちに終わったSGDQ2019。
毎回人気ブロックの1つ、TASbotくん。今回はマリオカートWiiをプレーしたようです。Japanese Restreamで日本語解説させていただきましたが、至らない部分が多々あったので、記事にしてもう一度綺麗に解説しようとしました。
!告知欄です!
7/13から開催される KUSO Marathonにて、僕が寝坊しない限りTouhou Luna Nights Any%の解説をさせていただくことになりました。
最近遊んだメトロイドヴァニアの中でも飛び抜けてお気に入りなので、解説できて嬉しいです。
合わせてチェックしていただければと思います!
Japanese Restreamについて
実は、日本のRTA界隈を盛り上げようと海外のイベントを『公式に』日本語で再配信する有志の団体があります。それがJapanese Restreamです。
https://www.twitch.tv/japanese_restream
つい最近まで、Dreamhack(海外の有名なLANイベント)で開催されたRTAイベントの日本語再配信を行っていました。
もうすぐ開催されるESAのRTAイベントも、公式で日本語再配信する予定です。解説、運営のお手伝い、まだまだ募集しています。興味のある方はまずDiscordコミュニティへどうぞ。
以前から少しお手伝いさせていただいているのですが、今回はTAS BlockのマリオカートWii、Celeste All Red BerriesとLethal League Blazeの解説をさせていただきました。それぞれVODsが上がっているのでこちらもチェック!
japanese_restreamのSGDQ2019 TAS BOT マリオカートWillをwww.twitch.tvから視聴する
japanese_restreamのSGDQ2019 TAS BOT Celesteをwww.twitch.tvから視聴する
japanese_restreamのSGDQ2019 リーサルリーグ ブレイズをwww.twitch.tvから視聴する
さて、今回はこちらの動画です。
TASBot pla.. owns Mario Kart Wii, Explained expertly by Malleo and crew (SGDQ 2019 TAS block)
英語まったく問題ないぜ!って方は上の動画を見てください。
本当はこれに字幕つけようとか別に解説動画作ろうとか思ってたんですが、時間がないので記事で許して。
dwangoACについて
dwangoACは、tasvideos.orgの管理人です。また、みんな大好きTASbotの保有者でもあります。
このおっちゃんです。すごいいい人。
http://tasvideos.org/TASBot.html
みなさんが動画サイトでみるTASは、99%がエミュレータを録画したものになりますが、dwangoACは「実機でのTAS再現」を目指し活動を続けている、TAS界隈では有名な人です。
TASは、一連のキー入力をエミュレーター上でエミュレートしているに過ぎません。つまり、このキー入力を実機のゲーム機本体へ入力することができて、エミュレータと同じ結果が得られるなら、実機でも再現可能だという証明になります。
TASbotについて
先ほど書いた、「エミュレータ上のキー入力を実機で再現する」一連のシステムのことをTASbotといいます。単に、よく目にする小さいロボットのことをTASbotということもあります。ソフトウェア開発、ハードウェア開発どちらにも何十人という有志が協力して完成したのが、私たちが目にするTASbotくんというわけです。
ちなみに姉妹機がいます。
.@MrTASBot it was nice to meet your sister, Taserina! Maybe we'll have her on stage some day? pic.twitter.com/OxizddfjGJ
— Taters (@TatersSays) January 18, 2019
今回使用されたゲーム機本体、ゲームディスクについて
実機での再現が目的ですが、今回はSGDQ。イベント楽しむことも忘れてはいけません。
Wii本体は改造なしですが、ゲームディスクに3点だけ手を加えてあります。
1.リプレイシステム上で、リプレイと全く同じインプットを行うためのコード
(dwangoACはリプレイ中に音声が流れるようにする変更と述べていますが、技術的にはこういうことです)
2.リプレイシステム上で、スピードメーターを表示するためのコード
3.時間短縮のため、次のコースへ自動的にカーソルを移動したり、マシン・キャラクターを自動で切り替えたりするためのコード
の3点です。すべてゲームの動作自体には一切干渉せず、より楽しむためのものです。
TASを実機上で再現する方法
ディスクのシステムは実機でのTAS再現が極端に難しいと言われています。ロードタイムが大きくブレることや、インプットラグが発生しやすいためです。
今回は、エミュレータ向けに生成されたリプレイデータをWii本体へコピーすることで再現しています。リプレイデータは動画などではなく、どの時間にどのインプットを行ったかだけを保存しているため、dwangoACにとってはやっていることは普段と変わらないわけです。
動画内で毎回TASさんが負ける件について
先程も書きましたが、今回はTASの入力をリプレイデータとして本体に移植し、これをリプレイシステムを使って再生することで実機検証を行っています。
ゴーストと自機は必ず同じ入力をするので、同じ結果になるわけです。
何故かはわかりませんが、今作では同タイムは負けと判定されます。
以下、各コースごとに解説していきます。
ルイージサーキット - キノコカップ
TAS製作者 : Malleo, Rocky, Monster, Thomas
ファンキーコングとワイルドスピアが基本的な最速構成です。コーナーがキツい、特定のショートカットに必要などの場合を除き、最速の組み合わせはこれです。
ジャンプ台や最終コーナーで使われる技が「ラピッドファイアホップ」です。
マニュアル操作の場合、ドリフトに入るために一瞬飛び上がる動作を、今後「ホップ」と呼びます。
30回/秒の速さでホップ入力をすると、ラピッドファイアホップと呼ばれる状態に入ります。
ラピッドファイアホップの特徴は、
①ジャンプ台などで使うと高度を極端に低くできる
②通常の最高速度を超え、キノコブーストを使い続けるときと同じ速さに到達できる
の2点が大きく上げられます。
①について、今作は空中にいる時間が長いほど基本的に速度が遅くなるため、高度を制御したほうが速い場合がほとんどです。最終コーナー前のジャンプ台でこれを使っています。
②について。少しむずかしいですが、簡単に説明します。
ホップの直後、数フレームだけ「ホップする直前のバイクの傾き」を保存する特性があります。傾きがリセットされる前にもう一度ホップを行うと、バイクが空中に浮かなくなり、地面に固定されるようになります。ラピッドファイアホップ中は、ホップ入力をしていますが、実際にはバイクは浮いていません。原理としてはケツワープと同じものです。
これを繰り返すと、バイクがだんだん加速していき、最終的にゲームが設定している最高速度のキノコブーストを使い続けているときと同じ速度(だいたい120km/h)に到達します。
この間、左右スティックの入力により方向調整が行えるので、最後のカーブからスタートライン周りの直線はこれで駆け抜けていきます。
このラピッドファイアホップにより得られる最高速は3周目では恩恵が得られません。砂場のショートカットをしたほうが早いため、3周目はこちらを選択します。
クッパキャッスル - スペシャルカップ
TAS製作者 : Zak
今回はワイルドスピアでなくスーパーバウザーを使用します。ワイルドスピアでは曲がりきれない角が多くあるため。
今後のいくつかのコースで出てきますが、カウントダウン中に謎のウィリーを繰り返しています。効果は主に2つ。
①最初のコーナー、ショートカットなど、目的の方向に自機を向ける
②開始位置より数フレーム前に出ることにより、数ミリセカンドの短縮
何度も繰り返しますが、滞空時間は長ければ長いほど遅くなります。空中にいると減速するためです。最初のジャンプ台では、できるだけ低くするためにジャンプ台の横から射出します。
(ラピッドファイアホップを使わなかった理由は、先に下り坂があるので十分な距離を稼げないため)
波打つ通路、下り階段などでも、空中にいる時間を短くするように最適化を行っています。
ところで、任天堂には壁の当たり判定をサボるという悪癖があります。このコースでも、ハーフパイプから大きくジャンプすることで大コーナーをすべてスキップします。1周ごとに約3秒の短縮。
最後の間欠泉地帯では、エアトリックを等間隔で行うことで最高速をできるだけ維持できるよう調整しています。
さて3周目の大スキップについて。
キノコ3つを使ってのみ可能なスキップです。ラピッドファイアホップを使い最高速を維持しつつ、ジャンプ台でわざと大きくジャンプするようにキノコで調整。ジャンプ台の直前でラピッドファイアホップをキャンセルすることで通常より高いジャンプ高度で射出します。
角度調整のために、コース脇のブロック角にあたりゴールまで向かいます。これだけで約3秒の短縮でした。
キノピオファクトリー - キノコカップ
TAS作者 : Blaze, Mario, Luke, TASPlasma
最初のベルトコンベアを抜けた直後に3回ホップするのは、速度維持のためです。
通常、ホップを繰り返しているとその分ウィリーしていない時間が増えるため、遅いと考えられています。
しかし、この前向きのベルトコンベア地帯のみは、ブーストと異なる仕様になっており、ホップすることでベルトコンベア上の速度を維持できます。4回目からはタイムロスとなります。
横から流れてくる木箱の角にぶつかって大ジャンプをするわけですが、この木箱はグローバルサイクルではありません。最初のベルトコンベアあたりでスポーンタイミングが決定し、一定区間を過ぎれば木箱はスポーンしません。
1周目はワイルドスピアの速さで最速のサイクルに間に合います。スーパーバウザーでは間に合いません。ベルトコンベアのコーナー地帯はワイルドスピアでは曲がりきれませんが、結果的にこちらのほうが早いそうです。
SFC おばけぬま2 - こうらカップ
TAS作者 : Akari, RS, Snoop, Jellopuff, Luke, Malleo, Thomas
ショートカットの代表のようなコースです。今回のイベント用に新しい大ショートカットが見つかっています。
まず、ゴールライン右のポールを使い大ジャンプ。距離が足りない…かと思いきや、ここから自機角度を調整しキノコで大きく射出されます。最終ストレートに戻ります。
このジャンプを「最適化しすぎた」結果、最終チェックポイントに触らずに最後の直線についてしまったため、少し逆走します。1周目で触っているチェックポイントは、最初と最後だけです。
今回のコースでは、1周目のみ、最後のチェックポイントをロードしたままの状態にしています。通常は、最初のチェックポイント→2個目のチェックポイントをロード→2個目のチェックポイントをクリア→3個目のチェックポイントをロード…という風になっていますが、ほとんどのコースではスタート地点で最後のチェックポイントをロードしています(逆走してゴール、を防ぐためと思われる)。これを利用したわけです。
64 DKジャングルパーク - このはカップ
TAS作者 : Blaze, Malleo, Thomas
デイジーとマッハバイクの組み合わせです。ファンキーコング・スーパーバウザーよりもさらに遅くなりますが、コーナリングの性能が高く、採用されています。
このゲームには、「垂直方向の壁」と「水平方向の壁」が存在します。壁なのに水平。床でも天井でもなく、壁です。
当然ですが、ほとんどの壁は垂直方向の壁です。ですが、ゴールフラッグの角など、一部の壁の当たり判定は水平に設置されています。
さらに、TAS製作者自身も理解していませんが、
「水平方向の壁」にぶつかった後、「垂直方向の壁」の当たり判定を一時的に消すことができる
という意味のわからないバグがあります。
結果として、マリオカート64と似たようなスキップが可能になったわけです。
ココナッツモール - フラワーカップ
TAS制作者 : Rocky, Sware, Delta, Monster, Malleo, Luke, LuigiM
このコースも例の「水平方向の壁」グリッチを使います。2個目のエスカレーターの右側に壁抜けしていくとき、ほんの少し「水平方向の壁」にカスあたりすることで、その後に存在する壁の当たり判定を消しています。
ゴールフラッグ横にある駐車場ですが、車にはもともと当たり判定がなく、さらに最初と最後のチェックポイントをロードできてしまうため、ここをグルグルするだけで周回カウントされます。
キノコキャニオン - キノコカップ
TAS製作者 : Jellopuff, Estaloy
どうやら任天堂は、フィールドのキノコに乗った後は着地することしか想定していなかったようです。もちろんこれを利用します。
フィールド上のキノコに乗った後、壁にぶつかると、キノコのトランポリンのような特性を維持したまま壁にぶつかることができます。つまり、壁にぶつかってもトランポリンのように跳ねるということ。
非常に繊細な操作で、最後のチェックポイントと最初のチェックポイントの間を行き来することができます。見た目もいいし、有名なグリッチです。
グラグラかざん - スターカップ
TAS製作者 : Thomas, Sware, Doofenshmirtz
キノピオとスピードスワンの組み合わせです。全キャラクター・全マシンの組み合わせの中で、1番の加速性能を持ちます。
このショートカット(というよりもはやバグ)自体は、ゲーム発売後2ヶ月で発見されていました。最古のショートカットと呼ばれています。
ゴールフラッグ真横、謎の岩があるので、そこに登ります。あとはグルグルかざんってね。
ここでも、最初のチェックポイントと最後のチェックポイントがロードされたままになっているので、またまた活用します。
岩から落ちないようにするためにところどころ減速する必要があるので、加速性能を重視してこの組み合わせになっています。
メイプルツリーハウス - スターカップ
TAS製作者 : Thomas, Rocky, Sware, Malleo, Luke, RS
2019年初期に、TAS製作者が集まって作った最初のTASです。複数人で最適解を探ることで、より効率のいい、練度の高いTASが完成しています。
まず、ゴールフラッグの後ろからOoB(壁抜けくらいの意味です)します。すぐにコースに戻りますが、これにより「最初のチェックポイントはクリアしているが、2個目のチェックポイントをクリアしていない」状態を作り出します。
この状態でもなぜか「最後のチェックポイント」をクリアすれば周回判定が付きますので、これを利用していきます。
2個目のチェックポイントをクリアしてしまうと、面倒な木のセクションを通らなければ最後のチェックポイントがロードされません。
大砲に入る前に左壁を擦るのは、「大砲を出た直後の着地までの距離は、大砲に入る前の速度に依存する」からです。できるだけ速度を落として飛距離を下げつつ、タイムロスしないギリギリを狙っています。
大砲後の反転ジャンプは結構人力でも可能。
DKスノーボードクロス - フラワーカップ
TAS製作者 : Zak, Jellopuff, Luke, Malleo, RS, LuigiM, cf, akari, Thomas, Marth, Rocky
イベント用に隠していたショートカット2つ目。
ラピッドファイアホップの効果について、じつはあと1つ隠していたことがあります。
ハーフパイプのジャンプ台でラピッドファイアホップをすると、まっすぐ、壁を抜けてジャンプできます。各周1.6秒ほどの短縮。
このコースに11人もの製作者が関わっている理由は、このコースのほとんどのトリックがピクセルパーフェクトだからです。
この結果を引き出すために、回転・速さ・自機の位置など、様々な要素を試します。1人だと何時間かかるかも分からない追記も、11人ならそれだけ短く済むわけです。
今回イベントで見せたすべてのコースが、3周とも「全く同じ入力が存在しない」コースです。つまり、1周だけTASを作って、あとはコピー・ペーストで完成!とはならない。それだけの労力がかけられています。
レインボーロード - スペシャルカップ
TAS製作者 : RS, Malleo, Luke
スタート直後、前輪だけコースに乗せることで地面からの牽引力をなくし、コーナーをジャンプしてスキップできるだけの運動量をためます。
八の字のセクションでは、柵に当たっても跳ね返るのではなく押し返されるだけなので、さらなるスピードを求めて利用します。
大砲から出た直後は「ずっと空中にいた」判定になっており、空中にいるということは減速しているということ。実際に50km/h程度まで減速しているのが見えます。最高速にできるだけ早く到達するために、ここでキノコブーストしています。
コースのあらゆる部分で、柵の中にいるのに弾かれない不思議な現象が見れますが、これは最初に説明したラピッドファイアホップの副次的効果の1つ、「自機が地面から離れなくなる」を利用しています。
さて最終トラックですが、大スキップがあります。
わざと柵で跳ね返されるんですが、このときに微調整して柵の外側に着地します。ここでもラピッドファイアホップを使用してそのまま逆走し、キノコ2つで最後のターン直前までスキップ。
以上、放送中に話せなかった部分や自分であとで調べた部分も含めて解説しました。動画を作る技量があれば動画でやったんですが…
放送での解説にあたり、様々な協力をしてくれたdwangoAC、事前にこっそりScriptをくれたMalleo、自分の理解に問題がないか確認してくれたAudrey Azuraに大きな感謝を。
分かりづらい点、質問などあれば、コメント・Twitterでお待ちしています。